ロービジョン関連用語ガイドライン

ロービジョンに関連する用語のガイドラインです。


日本ロービジョン学会は、医療、教育、福祉等、幅広い分野の会員から構成されているため、各分野によって用語の慣用的な意味が一致しないことによる学際的交流の妨げを減らし、研究成果の発表や討論を円滑に行うことに寄与する目的で、2000年11月に、用語委員会が設置されました。

委員会の役割は以下の通りです。

  • ロービジョン関連の用語を網羅的に検討するのではなく、定義、用法に混乱を招く可能性があると思われる用語に限って検討する。
  • 専門分野の学会等で学術的に定義が確立しているものは、その定義を確認する。
  • 上の定義が一般に用いられている慣用的な意味と異なる場合は、その旨の周知を図る。
  • 学術的な定義が確立していないものや、曖昧なものについては、当学会内での定義、用法を統一するための指針を示す。

初期の委員会がこれに沿ったガイドラインを2006年9月に冊子として発行し、学会のホームページにも掲載しました。以後の委員会においても用語追加や用語分類の修正、英訳の付記など、視覚障害リハビリテーションの現状に応じた対応を行っています。

今後も、皆様からのご意見を受けて修正を加え、より良いガイドラインにしたく思います。ご活用の上、ご意見、ご質問、検討用語追加のご要望等がありましたら、日本ロービジョン学会へご連絡くださいますようお願い申し上げます。

2023年2月

日本ロービジョン学会用語委員会
学術委員会 用語プロジェクト

  • 学術委員長・オブザーバー 井上賢治(井上眼科病院)
  • プロジェクトリーダー 張替涼子(新潟大学)
  • 委員 新井千賀子(杏林大学病院アイセンター)
  • 委員 小野峰子(東北文化学園大学)
  • 委員 加茂純子(甲府共立病院)
  • 委員 鈴鴨よしみ(東北大学)
  • 委員 高橋広(北九州市立総合療育センター)
  • 委員 鶴岡三惠子(井上眼科病院)

目次

下記、目次の項目をクリックするとページ内の各項目へ移動します。

  1. I.「視機能」に関する用語
  2. II.「障害」に関する用語
  3. III.「補助具」に関する用語
  4. 全文文書ファイル(2016年3月改訂版)


I.「視機能」に関する用語


[視力《しりょく》]visual acuity, vision

対象の細部構造を見分ける能力。眼科領域では最小分離閾で表すが、最小可読閾でもかまわない。国際眼科学会では、その測定にランドルト環を用い、識別できる最小視角(分)の逆数をもって視力とする小数視力が採用されている。

<参考>「視力測定法」
視力の測定法には次の4種がある。
1.最小視認閾:視野内に一つの点、あるいは一本の線が存在することを認める閾値
2.最小分離閾:二点または二本の線が分離して見分けられる閾値
3.最小可読閾:文字または複雑な図形を判読または弁別する閾値
4.副尺視力 :直線(または輪郭)のずれを見分ける閾値

[小数視力《しょうすうしりょく》]decimal visual acuity

識別できる最小視角(分)の逆数によって表された視力。

[分数視力《ぶんすうしりょく》]fractional visual acuity

検査距離を分子とし、識別できる最小視角が1分の人(小数視力1.0の人)がその視標をかろうじて識別できる距離を分母として表された視力。

[logMAR(logarithmic minimum angle of resolution)《ログマー》]

識別できる最小視角(分)の常用対数によって表された視力。視標の視角が等比級数(公比は10の10乗根)で作成された視力表では視力値は間隔尺度になっているため、視力を定量的に評価するのに適している。

[矯正視力《きょうせいしりょく》(corrected visual acuity)と裸眼視力《らがんしりょく》(uncorrected visual acuity)]

矯正視力は屈折異常を矯正して測定した視力であり、裸眼視力は矯正なしで測定した視力である。

<補足>所持眼鏡による視力(habitual vision)は必ずしも最善の矯正による最高の視力ではない。

[中心視力《ちゅうしんしりょく》(central visual acuity)と中心外視力《ちゅうしんがいしりょく》(eccentric visual acuity )

中心視力は中心窩で見たときの視力であり、中心外視力は中心窩以外の部位で見たときの視力である。

[両眼視力《りょうがんしりょく》(binocular visual acuity)と単眼視力《たんがんしりょく》(monocular visual acuity)]

両眼視力は両眼を用いて測定した視力であり、単眼視力は非測定眼を遮蔽して一眼で測定した視力である。

[遠見視力《えんけんしりょく》(distant visual acuity)と近見視力《きんけんしりょく》(near visual acuity)]

遠見視力は視標を遠方に置いて測定した視力であり、我が国では5mが基準である。近見視力は視標を近方に置いて測定した視力であり、我が国では30cmが基準である。

[字づまり視力《じづまりしりょく》(linear optotype visual acuity, multiple optotype visual acuity)と字ひとつ視力《じひとつしりょく》(single optotype visual acuity)]

字づまり視力は標準視力表等のように多数の視標が配置されている視力表を用いて測定した視力で、並列視力ともいう。字ひとつ視力は視標をひとつだけ提示して測定した視力で、単一視力ともいう。

[縞視力《しましりょく》]grating acuity

識別できた縞の幅を視角に換算して求めた視力。縞刺激には正弦波状のものと矩形波状のものがある。空間周波数特性の測定、preferential looking (PL) 法(選択視法,選好注視法)や視運動眼振による視力測定等に用いられる。

<参考>「視運動眼振(optokinetic nystagmus:OKN)による視力測定」
眼前で白黒の縞模様を動かし視運動眼振を誘発できた最小の幅の視角、あるいは誘発された視運動眼振を止めることができた最小視標の視角から、視力を求める方法がある。

[対比視力《たいひしりょく》(コントラスト視力《コントラスト視力》)]contrast acuity

種々の輝度コントラストの視標を配置した視力表で測定された視力。

[輝度対比《きどたいひ》(輝度コントラスト《きどコントラスト》)]luminance contrast

光の強度分布が異なる物体または像の明暗の相違を表す量の一つ。単に「コントラスト」という場合はこれを指す。

<補足>一般的に、コントラスト(輝度比)Cは、C=(Imax-Imin)/(Imax+Imin)
(ただし、Imax:光の強度の最大値,Imin:光の強度の最小値)で表される。

[色対比《いろたいひ》(色コントラスト《いろコントラスト》)]color contrast

色対比(色コントラスト)は、テスト領域の色が近接する誘導領域の色と相互に影響し、その相違が強調されて知覚される効果、すなわち、ある領域の色がその周囲の色によって異なって知覚される現象をいう。通常、誘導領域の補色がテスト領域に観察される(周囲光の補色があらわれる)ことを指す。

[色差《しきさ》]color difference

2色がどれだけ異なって見えるかという観測者の知覚する心理量で、均等色空間内の2色間の距離を、色相、明度、彩度の三属性表示に対応した差として表示するもの。

<補足>当学会で色の違いの度合いを問題にする際に、「色対比(色コントラスト)」という用語を用いるのは適当でなく、「色差」を用いるのが適当である。

[優位眼《ゆういがん》]dominant eye

両眼の視力がほぼ等しい者が両眼視する場合、漠然と背景を捉える側の眼に対して、対象物に視線を合わせて凝視する側の眼をいう。一般には利き眼(目)と同義語として用いられ、どちらか片方の眼を使うことを求められた場合に無意識に用いる側の眼にあたる。

<補足>視機能が良い側の眼が優位眼になる、ということではない。優位眼は視機能の変化によって変わりうるが、常に視機能が良い側の眼であるわけではない。

[視野《しや》]visual field

一般的には、一点を固視したままで見ることのできる範囲をいう。正確には視覚の感度分布として表される。

[中心視野《ちゅうしんしや》(central visual field)と周辺視野《しゅうへんしや》(peripheral visual field)]

中心視野は一般的に中心30度以内の視野であり、周辺視野はそれより外側の視野である。

[注視野《ちゅうしや》]field of gaze

頭部を固定して眼球運動により視標を直接見ることができる範囲。一般的に単眼で測定するが、両眼で測定することもある。

[有効視野《ゆうこうしや》]effective visual field(第1義)

注視点近傍の領域で認知に寄与する部分で、ある与えられた視覚的な仕事を遂行するのに必要な視覚情報を検索、弁別、処理ないしは貯蔵する範囲をいう。頭部の運動を伴わず衝動性眼球運動のみで注視点を移動できる範囲である。主に心理学分野で古くから広く用いられており、通常は中心固視を前提とする。

<補足>第2義はIIIの「障害」に関する用語へ記載。

[視能率《しのうりつ》]visual efficiency

視機能障害について、正常者の機能を100、その機能を失ったものを0として評価したもの。視力、視野、眼球運動について数量化がされていて、総合的な視能率の計算方法も決められている。


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II.「障害」に関する用語


[偏心視《へんしんし》]eccentric viewing

中心暗点等の視野異常がある場合に、相対的に感度が高い、必要な広さがある等の理由から、中心窩(中心小窩)以外の網膜部位で見ているが、主視方向は中心窩が維持している状態をいう。

<参考1>「中心固視《ちゅうしんこし》」central fixation・「中心窩(固)視《ちゅうしんか(こ)し》)」foveation
中心窩で固視が行われ、中心窩が主視方向をもつ単眼性の状態をいう。

<参考2>「偏心固視《へんしんこし》・中心外固視《ちゅうしんがいこし》」eccentric fixation
斜視等により、中心窩以外の網膜部位で固視が行われ、この部位が主視方向をもつ単眼性の状態をいう。これは斜視眼が固定された恒常性斜視にみられ、固視眼の中心窩との対応関係を獲得することで固視点となり、主視方向を持つようになったものである。

<補足1>主視方向とは、主観的に真正面と感じる部位で見たときの視方向をいい、通常は中心窩で見たときの方向がそれにあたる。視覚科学の分野では、主視方向を両眼視の場合と単眼視の場合を分けて定義することがあるが、ここでは眼科の固視検査にしたがって単眼視の場合とし、通常では中心窩の視方向に一致するとした。

<補足2>固視の状態については、眼科で行われる固視検査に準じて分類する。すなわち、非検査眼を遮蔽した状態で検査眼に固視目標を投影し、それを網膜のどこで捉えるかによって定義するが、中心窩以外の点あるいは領域で捉えるもののうち、中心暗点等のように主視方向が中心窩に残っているものは「偏心視」とし、斜視等によりその点が主視方向をもつ「偏心固視または中心外固視」とは区別する。

[偽中心固視《ぎちゅうしんこし》]pseudocentral fixation

中心暗点等の視野異常があるが、偏心視を獲得できておらず、本来の中心窩付近で固視しようとするため、固視が暗点内を動揺して定まらない状態をいう。

[偏心視域《へんしんしいき》]preferred retinal locus : PRL

中心暗点等の視野異常がある場合に、好んで固視に使っている網膜領域をいう。

[有効視野《ゆうこうしや》]effective visual field(第2義)

ある視覚的な作業の遂行に必要な情報が得られる視野の範囲をいい、中心暗点等の視野異常によって偏心視する場合、その作業遂行に必要な視野を保有しているか否かの検討等のために、眼科学分野で用いられ始めた。輪状暗点等により中心視野が非常に狭くなってなお中心固視している場合にも用いる。

<補足>第1義はⅠの「視機能」に関する用語へ記載。

[羞明《しゅうめい》]photophobia, glare

光が強くて不快に感じたり見えにくい状態になったりする「まぶしさ」を、医学的に症状として表現する場合に、これを羞明という。羞明は正常者においても病的状態においても生じうるものであり、正常者においてはグレアが、病的状態においてはグレアおよびグレア以外の機序が、羞明の原因となる。

<補足1>グレア以外の機序により羞明を生じうる病態として、眼球表面疾患、眼内の炎症性疾患、網膜・脈絡膜疾患、視神経疾患、緑内障、中枢性疾患、精神疾患等がある。

<補足2>「狭義の羞明」として、「三叉神経第一枝の病的な知覚刺激によって反射性に虹彩の血管拡張を生じ、これに光刺激が加わることにより縮瞳に痛みを伴うもの」と定義するものもある。

<補足3>羞明自体の英語としてglareを用いることがあるため、ここでは含めた。

[グレア]glare

過剰な輝度または過剰な輝度対比のために不快感または視機能低下を生じる現象。「不快グレア」と「障害グレア(減能グレア)」に分類されるが、これらは正常者と視機能になんらかの異常を有する者とのいずれにも生じることがあり、それぞれ羞明の要因として関与する。

<参考>「不快グレア《ふかいグレア》」discomfort glareと「障害グレア《しょうがいグレア》(減能グレア《げんのうグレア》)」disability glare
不快グレアは、視野内で隣接する部分の輝度差が著しい場合や、眼に入射する光量が急激に増した時に不快を感じる状態であり、一方、障害グレア(減能グレア)の代表的なものはヴェールグレアveiling glareであり、眼組織において生じる散乱光により網膜像のコントラストが低下し視力低下を来す状態をいう。また、光沢のある印刷面における反射光のために印字が読み難い場合などのような反射グレアreflected glareも障害グレア(減能グレア)の一種である。これらが同時に生じることもある。

[最大視認力《さいだいしにんりょく》]

主に教育の分野で用いられる用語であり、近見試視力視標で識別できる最小の視標とそのときの視距離を示したものである。視機能としての「視力」に相当するものではなく、弱視児が至近距離で文字等の読み書きをする視認力に相当する指標として利用されている。

[弱視《じゃくし》 ]

「弱視」には「(医学的な)弱視」と「(社会的な)弱視」がある。

「(医学的な)弱視《(いがくてきな)じゃくし》」amblyopia
乳幼児期の視機能が発達していく過程における視性刺激遮断が原因で、正常な視覚の発達が停止あるいは遅延している状態。

<補足1>斜視弱視(strabismic amblyopia)、屈折異常弱視(ammetropic amblyopia)、不同視弱視(anisometropic amblyopia)、形態覚遮断弱視/視性刺激遮断弱視(form vision deprivation amblyopia)に分類される。

<補足2>早期に適切な対応をすれば、視機能の向上が可能なことが多い。

「(社会的な)弱視《(しゃかいてきな)じゃくし》」partially sightedness, partially sighted, partial sight
視覚障害はあるが、主に視覚による日常生活および社会生活が可能である状態。

<補足1>このうち、とくに「(教育的な)弱視《(きょういくてきな)じゃくし》」(partially sightedness, partially sighted, partial sight)という場合は、「視覚障害はあるが、主に視覚による教育が可能である状態をいう。文字や事物が見えにくく、学習指導や学校生活の上で視覚の活用に特別な配慮を必要とする。特別支援学校に就学するための必要条件である学校教育法施行令第22条の3に規定される「視覚障害者」は、「両眼の視力がおおむね〇・三未満のもの又は視力以外の障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの」である。小・中学校に設置される特別支援学級の対象となる「弱視者」の程度は「拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの」とされている。また、通級による指導の対象となる「弱視者」は「拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの」とされている。

<補足2>学校教育法等の一部を改正する法律の施行(平成十九年十二月二十六日)に伴って,関係告示における用語が整理された。「盲学校」「盲者」(blindness, blinds)等の用語が用いられないことになった。改正された主な用語を以下に記す。「盲学校,聾学校,養護学校→特別支援学校」「盲者→視覚障害者」「特殊学級→特別支援学級」「特殊教育諸学校→特別支援学校」

<参考>「(社会的な)盲《(しゃかいてきな)もう》」blindness
視覚障害があるために、主に視覚以外の感覚による日常生活または社会生活を送る状態をいう。なお、「(医学的な)盲」blindnessは光覚もない視機能0(ゼロ)を指す。

[現職《げんしょく》]current work

現在従事している職務(職業)。ただし、職を離れていても、病気休暇や年次休暇等のように、休暇取得後の就労継続が身分的に保障されている場合にも該当する。

[原職《げんしょく》]former work

かつて従事していた元の職務(職業)。休職(休暇と違い長期にわたり連続して職を休むこと)、解雇、配置転換等により職を離れた場合に該当する。このような場合に元の職務(職業)に戻ることを「原職復帰《げんしょくふっき》(復職《ふくしょく》)」returning to former workという。


目次


III.「補助具」に関する用語


[補助具《ほじょぐ》]aid

身体機能の障害を補い、日常生活又は社会生活を容易にし、自立と社会参加を可能とするための道具や手段等の総称。かかる目的をもって製造者が特別に作ったものに加えて、既製品として存在する物品またはシステムがかかる目的をもって用いられる場合も含む。

<参考>「補装具《ほそうぐ》」orthosisおよび「日常生活用具《にちじょうせいかつようぐ》」tool to provide facility in the daily life of the visually impaired
障害者総合支援法に規定する「補装具」および「日常生活用具」は、いずれも厚生労働省告示によって種目が規定されているが、前掲の定義による「補助具」のすべてを含むものではない。また、特に日常生活用具の種目および具体的な製品については、自治体ごとに状況が異なるのが実態である。したがって、このような背景を理解した上で特に行政用語としての「補装具」および「日常生活用具」という意味で用いる場合を除いて、一般用語・学術用語として「補装具」および「日常生活用具」を用いるべきではなく、「補助具」を用いることが望ましい。

以下のように分類する。

Ⅰ. 視覚補助具
1.光学的視覚補助具
1)レンズ
ⅰ)屈折および調節補正レンズ
ⅱ)拡大鏡(縮小鏡を含む)
ⅲ)単眼鏡および双眼鏡
2)光吸収フィルタ
ⅰ)カラーレンズ
ⅱ)フォトクロミックレンズ
ⅲ)偏光レンズ
ⅳ)その他
3)その他の光学的視覚補助具
ⅰ)プリズム
ⅱ)反射鏡(拡大のための凹面鏡等)
ⅲ)ピンホール、スリット等
ⅳ)その他
2.非光学的視覚補助具

Ⅱ. 視覚補助具以外の補助具

[視覚補助具《しかくほじょぐ》]low vision aid

ロービジョン者の保有視機能を有効活用するための補助具の総称。
光学的視覚補助具と非光学的視覚補助具に大別される。

[光学的視覚補助具《こうがくてきしかくほじょぐ》]optical low vision aid

視覚補助具のうち、主として光学系を用いたものの総称。
レンズ、光吸収フィルタ、その他の光学的視覚補助具に分類する。

<補足>例えば、「もっぱら光源の光線束を収束させる目的でレンズが用いられている照明器具」等は、光学的視覚補助具には含めない。

<参考>「光学系《こうがくけい》」optical system
物体の結像等を行うため、反射面、屈折面等を、光軸を基準として配列したもの。

[レンズ]lens

少なくとも1つが平面ではない2つの面をもつ媒質またはその組み合わせで作られ、屈折作用を利用して対象物からの光線束を収束または発散させる作用をもつもの。レンズの屈折力は焦点距離(m)の逆数で表され、その単位はD(dioptre,diopter,dioptry)である。また、その読み方にはJISで定めるディオプトリのほか、ジオプター、ジオプトリーなどがある。
屈折および調節補正用レンズ、拡大鏡(縮小鏡を含む)、単眼鏡および双眼鏡の3つに分類する。

<補足>慣用として、上記のレンズの定義を満たさないものであっても、レンズの呼称を用いるものがある。
(例1:屈折度数を有さない光吸収フィルタ=カラーレンズ等と呼称)
(例2:回折レンズ=その他の光学的視覚補助具に分類)

<参考>「弱視レンズ《じゃくしレンズ》」の呼称
レンズを用いた光学的補助具を「弱視レンズ」と称する成書が多いが、定義が一定せず、慣用的に用いられているものと考えられるので、学術用語として用いることは避けるべきである。

[屈折矯正《くっせつきょうせい》および調節補正《ちょうせつほせい》用レンズ]correcting glasses

屈折矯正や調節補正の目的で用いる、屈折度数をもった眼鏡レンズおよびコンタクトレンズ。

<参考>「眼鏡《がんきょう・めがね》」glasses

  • JIS(T7330)定義:眼の測定、補正および/または保護のため、または見掛けをかえるために使用するレンズ等を、眼球に接触せずに、眼の前方に掛けるために装用するもの
  • 薬事法上の規定(医療用具としての「眼鏡」):視力補正用に限定される。
  • 障害者総合支援法の規定(「補装具」の一種目としての「眼鏡」):「眼鏡 矯正用」、「眼鏡 遮光用」、「眼鏡 コンタクトレンズ」、「眼鏡 弱視用」の4種類を指す。これらは以前「矯正眼鏡」「遮光眼鏡」「コンタクトレンズ」「弱視眼鏡」と呼称されていたが2018年に上記呼称に変更された。

「眼鏡」という呼称は、一般用語として、概ねJISの定義によるところのものが広く定着している。学術用語としては、「眼鏡」の呼称は、上述のような種々の意味合いを持つことを理解したうえで、誤解を生じないように注意して使用すべきである。

[拡大鏡《かくだいきょう》(magnifying lens)(縮小鏡《しゅくしょうきょう》(reducing lens)を含む)]

視対象の拡大または縮小された虚像を見るための焦点結像系を有するレンズ。

<補足1>拡大鏡(縮小鏡を含む)について、保持・装用の形式や照明光源の有無等により分類を加える場合があるが、分類法や呼称はいまだ確立しておらず、今後の検討課題である。

<補足2>「ルーペ」loupeの呼称は、一般用語として、また、特定の商標として用いられているが、単に「ルーペ」と表記した場合に何をさすものか曖昧であるので、学術用語としては「拡大鏡」を用いるべきである。

<参考1>[等価屈折力《とうかくっせつりょく》]equivalent power:EP,[等価視屈折力《とうかしくっせつりょく》]equivalent viewing power:EVPと[等価視距離《とうかしきょり》]equivalent viewing distance:EVD
日本工業規格(JIS)では「遠方の物体に対して実際のレンズによって結像される像と同じ大きさの像を結像する、厚さが無限に薄いレンズの屈折力」を「等価屈折力」と定義している。厚いレンズの場合はレンズ前面と後面の合成屈折力であり、2枚のレンズからなる光学系の場合は第1レンズと第2レンズの合成屈折力である。
拡大鏡の「等価視屈折力」は、拡大鏡と観察眼からなる光学系の等価屈折力で拡大鏡の屈折力と観察眼の調節力(および加入度)の合成屈折力である。「等価視距離」は、拡大鏡や拡大読書器によって生じた物体の像の大きさと同じ大きさに見えるように物体を眼前に置いた場合の眼からの距離で、“眼と像の間の距離/横倍率”に等しい。等価視距離と等価視屈折力は逆数の関係にある。拡大鏡の見かけの倍率は、物体と拡大鏡、また拡大鏡と眼との間の距離によって変化し拡大鏡の屈折力だけでは決まらないため、倍率に代わる拡大の表示方法として考えられた。

<参考2>[作業距離《さぎょうきょり》]working distanceと[作業空間《さぎょうくうかん》]working space
作業距離は眼から物体までの距離を指し、作業空間は補助具から物体までの距離を指す。

[単眼鏡《たんがんきょう》(monocular telescope ,monocle)および双眼鏡《そうがんきょう》(binocular telescope ,binoculars)]

対象物の眼への入射角を拡大(または縮小)して見る器械で、通常、焦点非結像系の光学系を持つもの。ケプラー式とガリレイ式がある。眼鏡フレームに固定された「掛けめがね式」と手に持って使用する「焦点調整式」の2種類がある。
補装具の「眼鏡」カテゴリーに含まれ、補装具としての正式名称は「眼鏡 弱視用」である。

<参考>「弱視眼鏡」の呼称について
以前は補装具の1種目として「弱視眼鏡」があったが2018年に「弱視眼鏡」の名称は廃止された。しかし2022年現在、この名称はまだ一般にも公的にも通用している状況である。
「弱視眼鏡」と呼ばれるものは「単眼鏡」が代表的であるが、それ以外の補助具も自治体によっては「弱視眼鏡」(または「眼鏡 弱視用」)枠で給付されている場合があるため単に「弱視眼鏡」と言った場合にそれが何を指すものか明らかでない。したがって一般用語・学術用語として「弱視眼鏡」を用いるべきではない。

[光吸収フィルタ《ひかりきゅうしゅうフィルタ》]light absorbing filter

入射光の特定波長範囲または特定比率の吸収をするように設計された光学素子。
視覚補助具としては眼鏡の形態をとる場合が多く、カラーレンズ、フォトクロミックレンズ、偏光レンズ、および、これらの性質を合わせ持ったレンズが用いられる。その他に、レンズの性質を持たないシート(セロファンなど)がある。

<補足1>光学の用語としての「フィルタ」filterとは、それを通過する光束の分光分布を変化させる作用を持つ光学素子のことであり、可視光線およびその近傍の波長の光に対するものを「光吸収フィルタ」と呼称する。

<補足2>光吸収フィルタの分類は、光学的性質による分類の他に、使用目的によるものや、流通上の諸法令によるものなど、さまざまなものがある。

[カラーレンズ]color lens

透過において色(グレーを含む)が付いたレンズ。

[フォトクロミックレンズ(調光レンズ《ちょうこうレンズ》)] photochronic lens

入射する光線の強度や波長によって、視感透過率特性が可逆的に変化するレンズ。

[偏光レンズ《へんこうレンズ》]polarized lens, polarizing lens

入射光線の偏光面方向によって吸収が異なるレンズ。

<参考1>「サングラス」sunglasses
光吸収フィルタを用いた眼鏡を総称する一般用語。後掲の「遮光眼鏡」も一般用語としての「サングラス」と称されるものに包含される。家庭用品品質表示法に基づく雑貨工業品品質表示規定では、中心から15mmの範囲に著しい歪みがなく、平行度が0.166D以下のものを「サングラス」と称し、この基準を満たさないものを「ファッショングラス」という。

<参考2>「遮光眼鏡」absorptive glasses, filter glasses, tinted glasses
学術的には「グレアの軽減、コントラストの改善、暗順応の補助等を目的として装用する光吸収フィルタを用いた眼鏡」と定義することができる。行政事務上は、2010年4月施行の補装具費支給事務取扱指針の一部改正により、障害者総合支援法による補装具の名称(種類)に関して「遮光眼鏡とは、羞明の軽減を目的として、可視光のうちの一部の透過を抑制するものであって、分光透過率曲線が公表されているものであること」と規定されている。したがって、学術的には遮光眼鏡と称されるものであっても、補装具として給付対象とならない例もありうるので注意を要する。

<補足>視覚補助具としての「遮光眼鏡」とは別に、溶接作業等に際して眼の保護の目的で装用する産業用の「遮光眼鏡」がある。

<参考3>「色めがね」
2006年4月の障害者自立支援法施行以前の身体障害者福祉法による補装具の名称には「遮光眼鏡」と並んで「色めがね」が掲げられており、前者は主として羞明の軽減を目的として、後者は主として整容上の必要から、それぞれ給付されるものとされていた。しかし、2006年4月の法令改変にともない、同年10月から「色めがね」は補装具の名称から除外されることになった。

[その他の光学的視覚補助具《こうがくてきしかくほじょぐ》]

光学的視覚補助具のうち、レンズおよび光吸収フィルタに分類されないもの。プリズム、拡大反射鏡、ピンホールなどが含まれる。

[プリズム]prism

光学的には、平行でない平面を2つ以上もつ透明体(JIS Z8120-I52)と定義される。ただし、眼鏡に用いられるプリズムレンズがすべてこの定義をみたしているとは限らず、入射した光が2つの面で屈折し収束発散せずに進路をかえるような効果をしめすものを総称して「プリズムレンズ」prism lensという。

[非光学的視覚補助具《ひこうがくてきしかくほじょぐ》]non-optical low vision aid

視覚補助具のうち光学系を用いないものの総称。
・相対的文字拡大法(例:大活字本,拡大コピー,パソコン用拡大ソフト類,拡大文字や表示をもつ各種の物品)
・照明光および光のコントロール(例:各種照明装置,マスキング,帽子,傘)
・書見台
・書字用補助具(例:太い罫線の用紙,太いフエルトペン,罫プレート(writing guide))
・読字用補助具(タイポスコープ(typoscope))
・拡大読書器,タブレット端末,スマートフォン等の電子式視覚機能拡張システム(electronical vision enhancement system:EVES)
・その他

<補足>機構として光学系を含む補助具であっても、その光学系の光軸が視軸と一致しないもの(例:拡大読書器、集光レンズ付ライト)は光学的視覚補助具ではなく非光学的視覚補助具に分類する。

<参考>「タイポスコープ(typoscope)と罫プレート《けいプレート》(writing guide)」
罫プレートは書くための補助具、タイポスコープは読むための補助具である。罫プレートは視覚補助具として使う場合と触覚を利用して使う場合がある。

[視覚補助具《しかくほじょぐ》以外の補助具]

補助具のうち、ロービジョン者の保有視機能を活用することを意図しないもの。感覚代行補助具(substitution for sense organ aid)がその主体となる。
・罫プレート(writing guide)
・定位および移動(歩行)補助具(例:白杖(ID cane,long cane),盲導犬,各種の電子的歩行補助具,全地球測位システム(global positioning system:GPS)の利用)
・各種の音声出力装置つき製品およびパソコン用音声ソフト類(タブレット端末,スマートフォン等を含む)
・携帯電話等の携帯情報端末
・ピンディスプレイなどの触知出力装置および触覚を利用した各種製品
・整容上装用する義眼(prosthesis),眼鏡等
・その他

(2016年3月改訂版)


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